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ヴント文庫(ヴィルヘルム・マックス・ヴント)

 ドイツの心理学者ヴィルヘルム・マックス・ヴント(1832–1920)の旧蔵書の一部で、単行書(製本済みの雑誌を含む)6,762冊と抜刷などの小冊子類9,098冊、計15,840冊(洋書)からなる。哲学、心理学関係を中心に、あらゆる学問分野の書物が収集されている。多数の論文抜刷は、当時の科学者や哲学者たちとの交流を知る上で貴重な資料である。ヴントによる書き入れも多い。
 ヴントは実験心理学を創始し、近代心理学の祖といわれている。1856年ハイデルベルク大学で医学の学位を取得し、生理学の父と呼ばれるヨハネス・ペトルス・ミュラー(1801–1858)のもとで学んだのち、同大学の生理学の私講師を務めた。次いでヘルマン・フォン・ヘルムホルツ(1821–1894)の助手を経て、1864年員外教授に昇格。『生理学的心理学綱要』(全3巻、1873–1874)を著した。1874年チューリヒ大学の哲学教授に転じ、翌年ライプツィヒ大学の哲学教授に就任した。1879年世界最初の心理学実験室をライプツィヒ大学に創設。ヴントの研究室には米国をはじめ世界中から研究者が集まり、日本からも1885年に東京大学の井上哲次郎(いのうえ てつじろう、1855–1944)が最初に聴講にでかけており、のちに留学した松本亦太郎(まつもと またたろう、1865–1943)は東京帝国大学と京都帝国大学に心理学実験室を創設した。晩年のヴントは高次精神作用の研究の一環として民族心理学に関心を持ち、『民族心理学』(全10巻、1900–1920)を刊行した。
 ヴントの没後、ドイツのローレンツ書店から蔵書が売りに出された。当時たまたまドイツ留学中で、帰国後東北帝国大学心理学教室の初代教授に就任することになっていた京都帝国大学助教授の千葉胤成(ちば たねなり、1884–1972)が、このことを伝え聞き、東北帝国大学のため購入に奔走した。ライプツィヒ大学や米国のエール大学、ハーバード大学なども購入に乗り出すなか、斎藤報恩会から購入資金の援助を得て東北帝国大学が獲得した。このとき購入した蔵書はヴントの全蔵書の約6割といわれている。このうち民族心理学関係書を含む一部の書籍はヴントの後継者フェリックス・クリューガー(1874–1948)の希望でライプツィヒ大学に寄贈された。また、残り約4割は、長男の哲学者マックス・ヴント(1879–1963)と、長女エレオノーレ・ヴントに引き継がれ、長男マックスの蔵書は現在、ボーフム大学の所蔵となっている。
 本文庫の目録として『Catalogue of the W. Wundt Library』(1923)が作成されている。

<http://www.library.tohoku.ac.jp/collect/collect.html>

事項:

ヴント、ヴィルヘルム・マックス; ヴント、エレオノーレ; ヴント、マックス; クリューガー、フェリックス; ドイツの心理学; ヘルムホルツ、ヘルマン・フォン; ミュラー、ヨハネス・ペーター; 井上哲次郎; 千葉胤成; 実験心理学; 心理学、ドイツの; 心理学史; 松本亦太郎 民族心理学

専門分野:

心理学

所蔵機関:

東北大学附属図書館

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