糸井文庫（糸井謹治）

　東京職業紹介所所長を務めた糸井謹治（いとい　きんじ、1895–1959）が収集した職業紹介事業関係を中心とした一次資料9,900点、和書540冊からなる。
　糸井謹治は大学卒業後の1920（大正9）年に、社会政策に関する調査研究や施設経営のために創立されたばかりの財団法人協調会の職員となった。同会の中央職業紹介局に配属された糸井は、全国の職業紹介事業の統括とその普及活動、各種調査に従事し、日本の職業紹介事業にその草創期から関わった。のち名古屋地方職業紹介事務局長、東京府職業課長、東京職業紹介所長などを歴任。日中戦争勃発後は、1938年に発動された国家総動員法により、国民勤労動員行政にもあたった。
　収集された資料は、糸井の職務に関する文献や一次資料であり、職業紹介関係のみならず、広く労働事情や社会事情に関する資料にまで及んでいる。期間は主として1920年頃から第二次世界大戦期にわたる。質量ともに日本の職業紹介事業資料の一大宝庫である。
　本文庫は、糸井の後輩の労働省参与安田辰馬（やすだ　たつま）の仲介により、遺族から東京大学社会科学研究所に寄贈（一部購入）された。目録として『東京大学社会科学研究所所蔵糸井文庫資料目録：職業紹介事業資料を中心にして』（1984）が刊行されている。